生地の良さが人気のファブリックブランド「ゼニア」
イタリアのファブリックブランド「エルメネジルド・ゼニア」は、「世界一美しい生地作り」という理念の通り、光沢があって着心地も良い生地の良さが魅力です。ゼニアのスーツは世界を飛び回る実業家や映画俳優に愛されています。また最近では、世界展開している高級紳士服ブランドにも生地を販売しており、ゼニア生地の品質に対する信頼が見て取れます。
それほどまでにゼニアの生地が愛されている理由はどこにあるのでしょうか。今回はゼニアの魅力である生地の良さについて、生地ができるまでの流れに沿ってご紹介します
目次
ゼニア生地の選び抜かれた原料
ゼニア生地の原料
ゼニアは生地を作る全工程を自社工場で管理しているのですが、加工だけではなく原料にも特別な調達ルートを持っています。繊維の原料となる羊毛は、すべて契約牧場で育てられた特定品種の羊毛のみを直接買い付けています。特にヒツジの脇から腹側にかけての部位は外気にあまり触れないため、スーツに仕立てるのに大変適した部位です。
特にグレードの高い生地には、成体より柔らかい子羊の毛を使用しています。子羊から採れる羊毛はとても希少ですが、スーツに仕立てた時の着心地はカシミヤウールにも引けを取りません。こうした希少な羊毛を重点的に仕入れるのは、まさに世界一の生地作りを目指すゼニアならではのこだわりと言って良いでしょう。
なぜスーツの生地に羊毛を使うのか。
近年技術開発が目覚ましい繊維工業ですが、軽く・強く・汚れにくい化学繊維を使ったブランドスーツはあまりありません。なぜスーツには羊毛が選ばれているのでしょうか。化学繊維では真似できない、羊毛だけが出せる着心地の良さがあるためです。
●羊毛の弾性
ウールは細くて柔らかい縮れ毛で、弾性がありお互いに絡まりやすい性質を持っています。そのため撚り合わせて繊維に加工することができ、紡績しても緊密な生地を作ることができます。
ウールは天然繊維の中でも最大の弾性を持っており、衣服に適した素材です。ウールといえば羊毛をイメージしますが、羊の体毛はウールのみでできているので衣類に利用しやすい素材です。こうした弾性のおかげで適度なストレッチが効いた、シワのできにくいスーツができます。
●羊毛の保湿性
羊毛の芯はスポンジ状の皮質「コルテックス」でできており、適度な保湿性があります。羊毛は体積の3割程度の湿度を保つことができる一方で、必要以上の湿度を排出する特性があるのです。この湿度が体と外気との間に湿度の層を作るので、冬に体温を奪うこともなければ、夏に蒸れ過ぎることもない快適なスーツを作ることができます。
コルテックスが持つ絶妙なスポンジ性の繊維は現在の繊維工業でも再現できず、いまだに人口羊毛を開発することはできていません。このため化学繊維が普及・進化しても尚、ウールが衣類用繊維として重用されているのです。
ゼニア独自の紡績法
原産地から品種まで選定された原料は、ゼニアの自社工場で繊維へと加工されます。ゼニアの製品は原料調達、繊維加工、生地の裁断まですべて自社工場で徹底的に品質管理されています。冒頭でお話しした通りゼニアは高級生地メーカーとしても信頼を集めており、エルメスやラルフローレンなど高級紳士服ブランドの約3割がゼニア製の生地を採用しています。
●生地のシワを抑える繊維加工
ゼニアは繊維加工技術を生かして、シワができにくい生地を開発しています。通常、衣服の生地は糸が縦横に整列した状態に織られています。この糸が一方向に引っ張られて糸が捻じれ、戻らなくなってしまうことでシワができてしまうのです。通常の繊維加工は、右回転で撚り合わせるS撚り、左回転のものをZ撚りと言いますが、一方向に撚り合わせているため逆方向の捻じれが起きやすくなります。
ゼニアは弾性に富んだ素材を使うだけでなく、この2つの撚り方を併用することで、シワができにくい・シワになっても戻りやすい生地を実現しました。糸を紡績する際に一方の繊維をS撚りもう一方をZ撚りで織り込むことで、1つの糸に2つの軸が生まれます。このため、片方の繊維が捻じれてももう片方は正常に保たれているので、生地を休ませてやるだけで捻じれが解消されます。この生地を使用した製品は、「一晩吊るしておくだけでシワが無くなる」スーツとして世界で活躍するビジネスマンに人気です。
●糸から染色するゼニア生地
繊維や生地の染色には、先染めと後染めという2つの方法があります。糸の段階で染色することを先染め、生地になった状態で染色することを後染めと言います。生産効率を優先した場合、一度に大量に染色できる後染めをするのが一般的です。
しかしゼニアは、一本一本の糸を染料に付ける手間を必要とした先染めを採用しています。先染めは繊維を均一染色できるのでムラなく仕上り、色素が定着しやすいので色落ちにも強い特徴があります。
染色と洗浄には、工場があるイタリア北部アルプスから汲みだした軟水が使われています。山地でろ過された軟水は金属イオンの含有量が少なく、染料が溶けやすく、洗剤が泡立ちやすいので、ムラのない染色や洗浄ができるのです。
こうした手間のかかる工程にも、製品の徹底的な品質向上を目指すゼニアの姿勢が表れているといって良いでしょう。
素材を活かしたゼニアの生地
ウールの厳選から始まり、加工、紡績、染色など多くの工程を経てようやくゼニアの生地が製造されます。柔らかく弾性に富んだ原毛を使い、丈夫な紡績を施した糸の魅力を最大限に活かすために、どのような織り方がされているのでしょうか。数ある生地レーベルの中から、「トロフェオ」を例にご紹介します。
スーツは衣類の中でも特に繊細なので、強度と肌ざわりの両立が難しいことが特徴です。通常の織り方で生地を作った場合、太い糸なら強度を得られますが質感が犠牲になってしまいます。もちろん日常生活の使用に耐えられる強度が必要なので、質感を追求して細い糸のみを使用することはできません。手触りが良く、軽く着こなせ、それでいて強度も十分なスーツを作るためにどうすればいいか。ゼニアはこの課題を、織り方を工夫することで解決しました。
●トロフェオの「生地の織り方」
2009年に生地の製造プランを見直し、繊維自体を強くするのではなく、“繊維の密度を上げる”という方針を打ち出しました。太い糸と細い糸を交互に折り込む「混合織り」を採用することで、繊維の密度が高い生地を作ることができます。
ウールは強く引っ張ったり緊密に織ることで光沢が際立つ特徴があります。複数の糸を使って緊密な生地を織ることで、太い繊維だけでは作れない「質感」と、細い繊維だけでは得られなかった「強度」の両立を可能にしました。細い繊維を取り入れたことでスーツが重くなりすぎず、着心地の良さにも好影響を与えているのもポイントです。
●トロフェオの模様
同じ面積の生地でも太い繊維だけで作られたものよりも糸の本数が多いので、織り方を工夫してジャガードやヘリンボーンといった模様入りの生地を生産できることも特徴です。2009年までのトロフェオは模様の少ないシックな生地が多かったのですが、この加工を取り入れたことでバラエティに富んだ生地が増えました。
それまで培ってきた品質に加えて生地の選択肢が増えたことで、現在ではラルフローレンやアルマーニといった世界的な高級紳士服ブランドにも生地を販売しています。
ゼニアの生地はどう選べばいいか
ゼニアは、他のファッションブランドが表記しているような生地の国際規格を採用していません。
一般的に流通している既製服は、生地を織りなしている繊維の太さによってグレード分けする国際規格「スーパー表示」を採用しています。細い糸を使ってきめ細かく織った生地は、光沢がありドレススーツとしての用途に適しています。しかし耐久性が低いため、出張などで長時間着用するビジネスマンには向かない服と判断できるのです。
これに対してゼニアのスーツは、太さの異なる複数の糸を織り込むことで、柔らかく軽量ながら丈夫な生地を使用しています。また着心地や光沢、耐久性といった生地の価値とは、糸の太さだけでなく素材の質や加工の仕方、生地の織り方などによって総合的に決まるという生地作りの哲学を持っています。太さの異なる繊維を使用しているゼニア生地の品質、生地の価値は表示では判断できないという考え方、この二つを示すためにゼニアは画一的な規格の使用しないのです。
しかしスーツを探している方にとっては、ドレススーツやビジネススーツなど、自分の用途に合った生地を選びたいものです。ゼニアの生地の違いは、どのように判断すれば良いのでしょうか。
●コンセプトを追求したレーベルから選ぶ。
創業から開発してきた生地を、製品の個性やニーズに合わせて発展させていったロングセラーのレーベルがあります。
ゼニアを代表する「トロフェオ」は、スーツとしての肌ざわりや品質を追求したレーベルです。「トラベラー」は一晩でシワが無くなるほどシワに対する機能性に優れています。「エレクタ」は多彩な織目によってフォーマルからストライプまで対応できる、オーダーメイドに最適な生地です。
こうしたレーベルの特性を中心に、さらに細かいモデルが存在しています。その中から自分の用途に適した生地を選択するのが、ゼニアの生地選びの第一歩と言えるでしょう。
●実際に店頭で試してみる。
ゼニアの生地は「一度着たら他のスーツは着られない」と思う方も多く、実物に触れた時にその魅力を体感することができます。ゼニアスーツの持つ光沢感や肌ざわり、着心地などを確かめるには、実際に試してみことが一番です。生地に触れて、光沢を眺めて、実際にその着心地を試してみることで、これまで読んでいただいたゼニアの良さを体感してもらえるのではないでしょうか。ゼニアの上質な生地に興味を持たれている方は、ぜひ店頭で実物に触れてみてください。
スーツをオーダーする時は、多彩な生地の中から好みの模様や性能のものを選ぶことができます。今お持ちのスーツの着心地が気になる方、自分の体形にフィットするものに出会ったことがないという方は、一度ゼニアの生地を試してみてはいかがでしょうか。