ゼニア秋冬スーツの流行は「クラシック」 2017年のトレンド生地
2017年、エルメネジルド・ゼニアが発表した秋冬新作クチュールには、クラシックスタイルのスーツが数多く見られました。
近年スーツスタイルのトレンドとなっている、この「クラシックスーツ」 その発祥は英国王室にあります。
イタリアンスーツの老舗であるゼニアは、このクラシックトレンドをどのように捉え、どういった作品を世に送り出していくのでしょうか。
今回は近年スーツスタイルのトレンドとなっている「クラシックスタイル」について、その成り立ちや特徴をご紹介します。そこで用いられているイタリアンスーツの製法や秋冬スーツ生地についても見てみましょう。
目次
- スーツファッションの原点「クラシック」とは
- クラシックスーツの源流は英国王室にあり
- 英国クラシックスタイルの特徴
- ①肩周りの男性的シルエット
- ②幅広の折り返し襟 ピークド・ラペル
- ③胸のイングリッシュドレープ
- ④ジャケット・ベスト・パンツの三つ揃い
- ⑤裾の広がったハイウエスト
- ⑥股上の深い幅広スラックス
- 世界一の生地メーカー「ゼニア」のクラシックスーツ
- 2016年 秋冬スーツの”クラシック回帰
- ゼニアのクラシックスーツ
- アレッサンドロ・サルトリ氏の復帰
- 2017年の秋冬スーツ 新作クチュールを発表
- ゼニアの秋冬クラシックスーツ
- 秋冬クラシックを快適に着こなせる生地 “Trofeo”
- 1930年代の復刻版ヴィンテージ ”Heritage”
- チェックからフリンジまで多彩な柄を持つ ”Electa”
スーツファッションの原点「クラシック」とは
クラシックスーツの源流は英国王室にあり
そもそもスーツの源流は、貴族の礼服であったモーニングコートなどに由来します。
乗馬用に後下がりのカットアウェイが施されたこれらの服を、公的な礼服としてさらに切り詰めてできたのが、今日では「ジャケット」「背広」と呼ばれている洋服です。
19世紀、イギリス社交界ではドレスコードとしてラウンジスーツが登場。
ダークカラーの三つ揃いで、イギリスの冠婚葬祭におけるドレスコードとして今でも着られる正装です。
この英国王室から端を発したスーツ文化が、現在「ブリティッシュスタイル」として定着し、現在のスーツスタイルの原点となっています。
英国クラシックスタイルの特徴
それでは、英国流のクラシックスーツとは、どのようなものを指すのでしょうか。
現代に語られている「クラシックスタイル」とは、1930年代のブリティッシュスタイルを指しています。
19世紀に築かれたスーツの伝統をおよそ200年もの間、守り続けていること。これがブリティッシュスタイルを「クラシック」と言わせしめる所以なのです。
そのブリティッシュ・クラシックスーツの特徴とは、以下のようなものが挙げられます。
①肩周りの男性的シルエット
英国風のクラシックスーツを大きく特徴づけているのが、肩周りのシルエット。
ブリティッシュスタイルでは、肩と腕部分のつなぎ目である「袖山」が高くなっています。
肩周りのシルエットは通常、筋肉のラインに沿って、なだらかな勾配を描きます。クラシックスーツでは、肩全体に綿を入れて“いかり肩”のような逆勾配が特徴と言えます。肩-袖山の部分に紐状の綿を入れたコンケープドショルダーはその最たる例と言えるでしょう。
これによって、クラシックスーツ特有の、男性的で堂々とした風格が現れます。
②幅広の折り返し襟 ピークド・ラペル
次に目を引くポイントが、首周りのカラーから続く、折り返し部分「ラペル」の特徴です。
クラシックスーツのラペルは横幅が広く、上端が尖ったピークド・ラペルが多く見られます。ラペルは元々、北国で馬に乗る際の暴風の役割を担っていました。そのためモダンスーツでは簡略化され、丸みを帯びたものも増えています。
③胸のイングリッシュドレープ
ラペルの大きさを差し引いても、クラシックスーツの胸元はゆったりとした縫製が成されています。この余裕を持たせた生地の縫い合わせは「イングリッシュドレープ」と呼ばれ、19世紀にはなかったクラシックスーツの特徴のひとつです。
さらにイングリッシュドレープを強調する要素が、「ゴージライン」の高さ。
ゴージラインとは、カラーとラペルの継ぎ目の部分を指す言葉です。クラシックスーツでは、大き目のピークド・ラペルに合わせてゴージラインが高めに設計されます。
④ジャケット・ベスト・パンツの三つ揃い
クラシックスーツと聞いて、シャーロックホームズのような三つ揃いを連想する方もいらっしゃることでしょう。
1. ジャケット
2. ベスト
3. パンツ
のスリーピースで構成されているのは、クラシックスーツが室内着としての役割を担っていたためです。
19世紀以前の価値観では、Yシャツを下着と考えられていました。そのため外出や乗馬の後にジャケットを脱ぐ際は、ベストが必需品だったのです。
⑤裾の広がったハイウエスト
クラシックスーツのウエストは、肩回りや胸元の存在感を強調するために引き締まったシルエットになっています。ウエストを通常よりも高い位置に絞ることで、男性的な逆三角形フォルムを生み出しているのです。
ウエストの高めに絞った上で、裾に広がりを持たせているのも特徴。前ボタンより下をフレアベンドに仕上げることで、より胸元のフォルムをどっしりとした印象にすることができます。
⑥股上の深い幅広スラックス
クラシックジャケットに合わせるパンツは、股上が深めに設計されたスラックスがよく選ばれます。幅広スラックスは腰回りがガッシリとした方にも好まれ、日本でもクラシック式のタック入りパンツを選ぶ方が多いです。細身の型には膝下から徐々に細く仕上げられたテーパードタイプも似合います。
世界一の生地メーカー「ゼニア」のクラシックスーツ
2016年 秋冬スーツの”クラシック回帰
2016年頃から新たなスーツトレンドとして注目されている、クラシックスタイル。
このトレンドを再現するために必要な要素となるのが、「生地の品質」だと言います。
古いスーツをお持ちの方なら、秋冬物のゴワゴワした肌触りや、ジャケットの重量感を連想する方もいらっしゃるかもしれません。
1930年代の文化を再現する上で、生地の質感と、軽量性、保温性の高さは大きな課題であり、隠れたトレンドとさえ言われています。
「流行は繰り返すと言っても、トレンドの変化はそう単純なものではない」
長らくクラシックスーツを手がけてきたイギリスのテーラーでさえそう語るほどです。
こうした“クラシック回帰”の人気を受けて本場ロンドンでは、イタリアンスーツの製作法である“ス・ミズーラ”が用いられています。
ス・ミズーラとは、イタリア語で「パターンオーダー」を意味する言葉。
元々はイタリア内陸部に位置するナポリ周辺の服飾ギルドで始まった、注文に合わせて生地を裁断するオーダーメイド手法です。
イタリアンスーツは一般に、細身のシルエットと個性的なディティールが特徴とされています。保守的なブリティッシュスタイルとは相反する流派とさえ言える存在ですが、生地の品質を重視してスーツを作る上で、ス・ミズーラは非常に理にかなった製作法です。
ゼニアのクラシックスーツ
ス・ミズーラの典型として挙げられるスーツブランドが、トリヴェロに居を構えるエルメネジルド・ゼニアです。
ゼニア社は、スーツ生地の素材となるウール調達から、繊維加工、生地作り、そしてスーツ製作までをすべて自社で行っています。「世界一のファブリックブランド」を自負しており、その生地は製品としてそのままアルマーニやラルフローレンにも販売されている、折り紙付きの品質。ゼニアが契約しているテーラーには多彩な生地が届けられており、全世界でおよそ3000種類が流通しています。
こうした多様な生地からオーダーすることのできるゼニアのオーダースーツは、シルエットから細部にまでこだわるクラシックスーツとの相性が良いブランドなのです。
アレッサンドロ・サルトリ氏の復帰
さらに2016年は、ゼニア社全体のアートワークにも大きな変化がありました。
グループ全体の生地デザインを担当するアーティスティックディレクターに、アレッサンドロ・サルトリ氏が復帰したのです。
同氏は2003年にゼニア社のカジュアルブランド「Z ゼニア」を立ち上げ、クリエイティブディレクターを担当。
一時は、革靴や財布などを取り扱うファッションブランド「ベルルッティ」に移籍していた経緯を持ちます。
その彼が、2016年までスーツ部門のヘッドデザイナーを担っていたピラーティ氏と交代する形でゼニアのディレクターに就任。
若手時代に築き上げたセンスによる、「ゼニアのクラシック」にも革新性が期待されています。
2017年の秋冬スーツ 新作クチュールを発表
ゼニアが2017年の秋冬新作クチュールとして発表したコレクションは、サルトリ氏が復帰してから最初に披露された作品です。
特に目を引くポイントは、スポーティとクラシックが共存した作品が多いところ。
スクエアショルダーのジャケットに、ワッフル地のワイドパンツを組み合わせた作品は、特にその代表と言えます。さらには灰色のヘリンボーン地を用いたダブルブレストに、タック入りのジョガーパンツを合わせた挑戦的な作品まで。
それぞれの特徴だけを見比べると奇妙な組み合わせではありますが、驚くことにどちらも調和が取れたデザインです。現代的なモダンスーツやカジュアルファッションに、クラシックスーツの要素を取り入れた作品群は、“ゼニアクラシック”の今後を期待される作品ばかりです。
ゼニアの秋冬クラシックスーツ
秋冬クラシックを快適に着こなせる生地 “Trofeo”
クラシックスタイルの様式を取り入れつつ、現代的な生地の品質を楽しめるのが、ゼニアが誇るスーパーファインメリノウールを使用した生地Trofeoです。
Trofeoの由来は、ゼニア社が直接契約している羊毛生産者が、毎年ウールの品質を競うグランプリ“ゼニア・ウール・トロフィー”から来ています。
トロフィーを獲得したウールは、ゼニアの強撚製糸法にも耐える丈夫な素材なので、耐久性を保ちながらも軽やかなスーツを作ることができます。
そのため、秋冬のクラシックスーツでありながら、軽量かつ十分な強度を持つ生地です。
さらにスーパーファインメリノウールを使った生地は、滑らかな光沢と豊かな張りコシを持ちます。
ゼニアスーツの着心地は「一度袖を通したら他の製品は着られない」とまで言わせしめるほど。
1930年代の復刻版ヴィンテージ ”Heritage”
Heritageは、1930年代のヴィンテージスーツを再現した生地レーベルとなっています。
クラシックスタイルの見た目の魅力をそのままに、繊維加工技術によって着心地が向上したレーベルです。
当時のスーツ生地は丈夫さを保つために、重量感がありました。
これまでご紹介した通り、強度を確保するために厚手の生地を使う必要があったのです。
復刻版のHeritageは、強力に撚り合わせた細番手の糸を採用することで、軽量ながら十分な強度を持つスーツが完成しました。
細く強力な糸を編み合わせることで、軽量でも丈夫な生地を用いることができたのです。
伝統的なスタイルを踏襲しつつ、ゼニアが誇る最新繊維技術をつぎ込んだ、伝統的イタリアンスーツです。
チェックからフリンジまで多彩な柄を持つ ”Electa”
クラシックスーツは、チェックやストライプといった生地の柄も魅力的です。
フルオーダー専用に用意された生地Electaは、そうした模様の魅力を最大限に引き出すことのできるレーベルと言えます。
Electaに使用されている糸は直径平均18ミクロンという、ゼニアの繊維の中では太いもの。
しかし、太い糸同士の間に、より繊細な糸を混合することによって、滑らかな肌触りを実現しています。
繊維の本数が多いということで、多彩な色を織り合わせることができるという魅力を持ちます。
淡色のグレー地を基調としたクラシックスーツならば、定番の細かいチェック柄が人気です。
濃色の場合は、霜降り状のフリンジを多用したストライプ柄がおすすめできます。
クラシックスーツをオーダーされる方の中には、現代風クラシックスタイルを「クラシックとモードの融合」と捉える方もいる様子。
男性的なクラシックスタイルのシルエットに、モード風の細いラペルを取り入れるなど、流行に流されずスーツを着こなしているのです。フルオーダーには抵抗をお持ちでも、スーツを新調される方は参考にされてみても良いでしょう。